【バレエ物語】ジゼル全幕の見どころ・曲・振付について

バレエ ジゼル全幕について

バレエ経験者やバレエファンにとってはロマンティックバレエの代表作としても馴染みの深いジゼル。バレエ初心者の方にとっては、白鳥の湖やくるみ割り人形程の知名度はないものの、「白鳥の湖」「ラ・シルフィード」と並んで三大バレエブラン(白いバレエ)と呼ばれています。

踊る事が大好きだが病弱で可憐な村娘ジゼルと貴族アルブレヒトとの儚い恋について描かれたストーリー。ジゼルの繊細さや踊りへの情熱、恋人への想いを秘めて踊るジゼルのバリエーションは、踊りの技術だけではなく、豊かな情緒や表現力を必要とする振付となっており、コンクールや発表会などでも数多く踊られています。

バレエのジゼルの物語は残念ながら、悲劇でハッピーエンドではありません。もともと身体の弱いジゼルはあるショックな出来事により、息絶えてしまうという悲劇のストーリーなのです。ですが、2幕の妖艶な精霊たちによる踊りは、三大バレエブランとして正統派のロマンティックバレエらしく、幻想的な世界観が多くのバレエファンに愛されています。




バレエ ジゼルの原作と作曲者や振付師について

バレエジゼルはドイツの作家ハインリヒ・ハイネによって紹介されたオーストリア地方に伝わる伝説をヒントに作り上げられました。その伝説とは、「結婚を目前にして無念の死をとげた未婚の娘は昇天できず、妖精ウィリとなり若い男を死ぬまで躍らせて恨みをはらす」というもの。そのため、ウィリ達は着るはずであった花嫁衣裳を思わせる白い衣装を身につけています。

作曲はフランスの作曲家アドルフ・アダンがオリジナルを制作し、そこにヨハン・ブルグミューラーがワルツを1曲とジゼルと友人が踊る5曲を加えて完成しました。ブルグミューラーはピアノ経験者は練習曲として多くの方が通ってきた作曲家ですね。オリジナルを作ったアドルフ・アダンは讃美歌のクリスマス・キャロル(おお聖夜)の作曲家として知られています。

ジャン・コラーリとエスメラルダの振り付け師としても知られるジュール・ペローによって振り付けがなされ、1841年にパリ・オペラ座で初演されました。翌年にはロシアのサンクトペテルブルグで上演され、それから10年をかけてペローは改訂を繰り返し、初演から大幅な変更がなされました。更に、1880年代にはマリウス・プティパが大幅な改訂を行い、現在の有名な第1幕のジゼルのヴァリエーションはプティパによって振り付けられたものとなっています。また、音楽もドンキホーテやパキータの作曲を手掛けたレオン・ミンクス作曲によるものが加わり、現在のジゼルの構成へと変わっていきました。

バレエ ジゼルの見どころ

バレエジゼルは、2幕から構成され、プロローグなどもないため全幕もののバレエとしては全体の公演時間も短い作品となっています。正統派のバレエの幻想的な雰囲気とは裏腹に、物語に登場するジゼルの恋人役アルブレヒトは、現代なら文春砲に叩かれること間違いなしのゲスの極みですね。バレエ初心者の方はそん角度から見てみても面白いと思います。

第1幕

ライン河にほど近いドイツの田舎にある小さな村が舞台。多くのバレエ公演の演出で、左側にはジゼルの小さなお家が、右手にはジゼルの恋人である青年ロイスが使っている小屋が建っています。

季節はブドウの収穫の時期で、村の娘たちはブドウ畑に出かけていきます。森番のヒラリオンはジゼルに恋をする村人。ジゼルへの想いを託した小さな花をジゼルの家の窓辺に飾ります。

ジゼルの恋人である青年ロイスは実は身分を隠し村人になりきっている伯爵のアルブレヒト。ジゼルに村人であると嘘をついて、村娘ジゼルを虜にしてしまいます。アルブレヒトもまた従者が止めるのも聞かず、本来の身分に戻ろうとせず、ジゼルに愛を語らいます。ジゼルとアルブレヒトの微笑ましい愛の語らいや、ジゼルが花占いをするシーンも微笑ましく、見どころの一つです。

この2人の甘いやり取りを見ていた恋敵のヒラリオンは、隠れていた物陰から現れ、ジゼルは自分のものだとアルブレヒトをなじります。その後も、アルブレヒトを観察するヒラリオンはアルブレヒトに身分の高い貴族たちがうやうやしく礼をしている瞬間を垣間見、アルブレヒトの身分について疑いの目を向けていきます。

そんな3人のやり取りが続けられた後、ブドウを摘みに行った村娘たちが戻ってきます。ジゼルの家の前に輪が広がり、村娘たちによる踊りや、ワルツ、ジゼルとアルブレヒトによる小さなパ・ド・ドゥ―が次々と踊られます。そこへ、身体が弱い娘を心配するジゼルの母が家の中から出てきて、そんなに踊ってばかりいては魔物のウィリーになってしまうと娘たちに話し、村娘たちは再びブドウを摘みにでかけ、病弱なジゼルは家に連れ戻されます。




そこへヒラリオンがジゼルに会うために現れたところに、狩の角笛が聞こえてきます。角笛とともに貴族の一行が近づくのを見たヒラリオンは、アルブレヒトの正体があばけるのではと考え、アルブレヒトの小屋に身を潜めます。

狩の一行はなんと、アルブレヒトの婚約者であるバチルド姫と、バチルド姫の父クーランド侯によるもので、一行はジゼルの家でしばしの休憩をとることになります。バチルド姫とジゼルは年ごろの女性同志、仕事や遊びや恋の話をして仲良くなり、愛らしいジゼルは、バチルド姫からも愛さっれ、友人となった印に首飾をプレゼントされます。

一行がジゼルの家の中に入ると、ヒラリオンはアルブレヒトの小屋で見つけた貴族の象徴である剣をもって現れます。後にジゼルに話す証拠にしようと、ヒラリオンは剣を草むらに隠して去ります。ブドウの収穫を終えて戻ってきた村娘たちは、収穫を祝って次々に踊ります。村の若者たちやアルブレヒトも加わり、一層賑わいを見せる中、ジゼルも母の許しを得て踊りを披露します(ジゼルのバリエーション)。そして賑わいが最高潮に達した頃、ヒラリオンが登場し、草むらからアルブレヒトの剣を取り出し、アルブレヒトの身分を村人たちの前であばき、角笛を鳴らします。

角笛を聞いてジゼルの家からでてきたバチルド姫とクーランド侯は、すっかり村人と化しているアルブレヒトの姿をみて驚き、その理由を尋ねます。アルブレヒトは何も答える事が出来ず、そっとバチルド姫の手に口づけをします。アルブレヒトが貴族である事、そしてそのアルブレヒトには婚約者がいる事、その相手がたったいま仲良くなったばかりのバチルド姫であったこと。全ての事情を知ったジゼルは、バチルドから受け取った首飾りを引きちぎり、半狂乱となり、病弱なジゼルはそのまま息を引き取ってしまいます。

1幕前半のアルブレヒトとジゼルが恋に落ち仲良くなる微笑ましい場面や、村娘たちによる踊りを披露する明るく華やかな場面から一転、全ての事情を知ったジゼルが取り乱しそのまま一気に死に至ってしまう展開はまるで映画やドラマのワンシーンを見ているような展開です。

第2幕

舞台は昼間の明るい村から一転、訪れる者を死ぬまで躍らせるという妖精ウィリが棲む森へ変わります。ジゼルの墓の前にはヒラリオンが深く頭をたれている姿があります。次第に雲行きがあやしくなり、ヒラリオンは驚いてその場を去ります。

妖精ウィリの女王ミルタが現れ、地の底からウィリー達を呼び起こします。深夜の森の沼の近くに棲むウィリの仲間に、ジゼルは女王ミルタによって迎え入れられます。ジゼルが墓から呼び出され、新しいウィリーとしての魔性が与えられると、ジゼルはその場で急速な回転をして踊り始めます。このジゼルが片足を上げたまま、回転をする振付は、他のバレエ作品によく登場する回転の技とは異なり、ジゼルでしか見られない見どころの一つです。

アルブレヒトが後悔の念にかられ、百合をジゼルの墓に捧げひざまづくとジゼルの幻が現れては消えていきます。アルブレヒトがジゼルの幻を追いながら墓の前を去ると、再び現れたヒラリオンは、ウィリの餌食となり沼に突き落とされ沈められてしまいます。それを見たアルブレヒトは、ミルタに命乞いをしますが許されることはありません。

自分の愛した人を守りたいジゼルは、十字架の力を使い女王ミルタの象徴である枝を折りますが、ミルタの魔性の力は消えません。女王ミルタはジゼルに、アルブレヒトを死ぬまで踊らされることを命じます。2人はミルタに懇願しますが、一切その願いは届きません。

力の限り踊らされるアルブレヒトと、なんとかアルブレヒトを助けようとミルタに命乞いをするジゼル。そのお陰で時間が過ぎ、アルブレヒトの力がついに尽きそうになった時、夜明けの鐘がなります。朝の光を浴びたウィリ達は墓に戻り、ジゼルはアルブレヒトに別れを告げ静かに昇天してゆきます。アルブレヒトはジゼルの愛によって助けられました。

※バレエ団の演出によって、ストーリーはこの限りではありません。



バレエ ジゼルの見どころ補足

1幕前半の朗らかで明るい雰囲気から一転、後半は一気にシリアスなシーンへと転換します。さらに、2幕ではまたガラっと雰囲気が変わり、精霊たちによる神秘的で緊迫感のある場面になります。1幕と2幕の対照的な演出の違いも見どころです。2幕のシーンは薄暗く、衣装もウィリー達は皆同じ白いチュチュの衣装を身に着け、男性もシンプルな白と黒の衣装。淡泊で眠くなるのでは?と思うくらい静まり返った場面から始まりますが、女王ミルタの鉄のような他を寄せ付けない姿と、必死に助けを乞うジゼルの姿、本当に力がつきそうになるまで踊っているアルブレヒトの姿は、緊迫感もありとても引き込まれる構成になっています。

また、アルブレヒトのジゼルへの愛が本物だったのか、それとも貴族の戯れだったのかは各バレエ団やダンサーによっても解釈が異なり、どのように演じているのかを楽しめるのも見どころです。

決して男たちを許さない女王ミルタの強さも見ていて怖さを感じる程ですが、純粋にジゼルに恋をして何も悪い事をしていないヒラリオンが殺され、例え本気の愛だったにせよ偽りの姿でジゼルに近づき、更に婚約者がいるのにジゼルと恋仲になったアルブレヒトの命が助かるというのは個人的に納得がいきません!

でもこれが、バレエに登場する女性像の可愛いところで、どんなに信じられないお馬鹿さんな彼氏でも最後まで自分が信じた人への愛を貫き通すのです。